かんたん動画マニュアル作成ツール「tebiki」を展開する現場改善ラボ編集部です。
読者の方が務める工場では、照明環境を「なんとなく」で決めているかもしれません。しかし、照度不足は作業ミスや事故を招くだけでなく、従業員の健康へ影響する重大な問題になりえます。
一方で、いざ改善を検討しても、法的義務である労働安全衛生法と推奨基準であるJIS規格の使い分けに悩む管理者は少なくありません。
そこで本記事では、2022年の事務所則改正に対応した最新の照度基準をエリア別に解説します。測定の手順から具体的な改善3ステップ、さらには「光の質」を高める設計手法まで網羅しました。環境改善と併せて、動画を活用した教育による対策についても触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
まず押さえたい|工場の照度基準は“2つの基準”を理解することが出発点
工場の照明環境は、従業員の安全と製品の品質に影響します。まずは、法的義務と推奨指針という性質が異なる「2つの基準」について以下の4つの順で理解してみましょう。
- 照度とは(ルクス値の基本)と測定面の考え方
- JIS照度基準(JIS Z 9110)とは|推奨値の目的と役割
- 労働安全衛生法(事務所則)の最低基準との違い
- JISと安衛法の関係を図で整理(判断の迷いを解消)
照度とは(ルクス値の基本)と測定面の考え方
照度とは、光が当たっている場所の明るさを示す指標で、単位はルクス(lx)を用います。工場管理において特に重要なのは、照明器具そのものの明るさではなく「作業者の手元に届く光の量」です。天井のLEDがいくら明るくても、大型機械や作業者の体で手元が影になっていては、安全な作業はできません。
JIS照度基準(JIS Z 9110)照明基準総則*1に基づけば、測定は原則として実際の作業が行われる面(作業面)で行います。もし作業面が特定できない場合は、床上0.8m(座り作業なら0.45m – 0.5m程度)を基準の高さとして計測します。床面や通路の照度を測る場合は、床そのものの明るさを測定してください。
特に、視機能が低下しがちな高年齢労働者がいる現場では、若年層よりも明るい環境が求められます。現場の保全担当者は、専用の照度計を用いて各工程の「実際の明るさ」を定期的に測定しましょう。
JIS照度基準(JIS Z 9110)とは|推奨値の目的と役割
JIS照度基準(JIS Z 9110)は、あくまでも快適で効率的な作業環境を作るためのガイドラインと解釈して良いでしょう。そのため、罰則を伴う法的義務ではありません。しかし、生産性や品質を保証するために極めて重要な事項が記載されています。JISが詳細な数値を定めている理由は、作業の難易度に応じて適している視環境が異なるからです。
例えば、JIS照度基準(JIS Z 9110)の5.4工場の項目では、精密部品の組み立てや外観検査では、1500ルクス以上という非常に高い照度が推奨されています。微細なキズや異物を瞬時に判別し、不良品の流出を防ぐには、それだけの明るさが必要だからです。
また、JISでは明るさだけでなく、まぶしさを抑える「グレア対策」や色の見え方も重視されています。
こうしたJISの項目を満たすことで、作業者の集中力が持続し、結果として歩留まりの改善につながると考えられます。
労働安全衛生法(事務所則)の最低基準との違い
労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則*2とは、従業員の健康を守るために定められた「最低限の義務」のことです。JISとの最大の違いは法的拘束力がある点で、基準を下回ったまま放置すれば法令違反として行政指導の対象になります。特に2022年12月の改正で、照度基準の区分が見直された点は必ず押さえておきましょう。
従来の3区分から「一般的な事務作業(300ルクス以上)」と「付随的な事務作業(150ルクス以上)」の2区分に統合されました。改正は、照度不足による眼精疲労や、無理な姿勢での作業による身体的障害を防止することが目的です。
工場内であっても、管理事務所や設計室、休憩室などは法律の基準をクリアしなければなりません。総務や衛生管理者は、自社の環境が最新の法基準を満たしているか、監査前に早急に確認する必要があります。
JISと安衛法の関係を図で整理(判断の迷いを解消)
2つの基準の関係のうち、安衛法は守るべき最低ラインであり、JISは品質と安全を守る上で目指すべき環境と言えます。2つの基準と違いを理解することで、コストと効果のバランスが取れた、無駄のない設備投資が可能になります。全てのエリアをハイスペックなJIS基準にする必要はありませんし、逆にすべてを最低限の安衛法で済ませるのも危険です。
例えば、通路や倉庫は安衛法の基準でコストを抑え、検品ラインなど極めて重要な場所はJIS推奨値を採用するといった運用が賢明だと考えます。判断に迷った際は、「その場所でミスが起きた時の損失」を基準に考えてみてください。重大な事故や品質トラブルのリスクが高い場所ほど、より厳しい基準であるJISを選ぶべきです。
【工場の作業内容別】必要な照度基準や最新ルクス値一覧
作業内容に適した照度基準は、品質と安全を守るための必須の知識です。ここではJIS規格(推奨値)と労働安全衛生法(法的義務)に基づき、具体的にルクス値をエリア別に以下の5つの事項を解説します。
- 一般作業(普通作業)の照度値
- 精密作業・検査作業(外観検査・品質管理)
- 粗作業・倉庫作業(物流・搬送)
- 設計室・製図室・制御室など高照度が必要なエリア
- 事務所(2022年の事務所則改正対応)
一般作業(普通作業)の照度値
一般作業(普通作業)では、JIS規格で推奨される「500ルクス」を目安に設定しましょう。労働安全衛生法の基準である150ルクスはあくまで最低ラインであり、生産性を維持するには不十分と言えるからです。
実際、JIS規格(JIS Z 9110)においても、通常の組み立てや包装といった「普通の作業」に対しては、500ルクスという数値が推奨されています。手元が暗い現場では、部品の向きや細部を確認するために無意識に目を凝らす時間が増え、これが作業スピードの低下やケアレスミスの原因となります。
品質と効率を高いレベルで維持するためには、法的な義務をクリアして、作業者が快適に働けるJIS推奨値を確保しましょう。
精密作業・検査作業(外観検査・品質管理)
微細なキズや異物の混入を見逃さないためには、オフィスよりも強い明るさが必要です。
法律上の300ルクスはあくまで『目を悪くしないため』の基準ですが、精密作業や検査工程のような「精密な視作業」において不良品を見つけるにはJIS推奨の1000〜1500ルクスが不可欠です。
特に電子部品の製造や最終外観検査など、高い精度が求められる場所では、演色性(Ra)も重視しなければなりません。色が正しく見えない照明下では、微妙な色ムラや変色などの不良を発見できず、品質トラブルに直結する恐れがあります。
視力が低下傾向にあるベテラン従業員にとって、十分な明るさは作業品質を保つための生命線とも言えます。全体照明だけで推奨値を確保するのはコストがかさむため、手元を照らすタスクライトの併用を検討してください。部分的な照明追加なら、大規模な電気工事なしでも即座に環境を改善できるメリットがあります。
粗作業・倉庫作業(物流・搬送)
粗作業や倉庫作業エリアであっても「200ルクス」程度の明るさを確保すべきです。視覚的な負担が少ない作業とはいえ、照度が低すぎるとフォークリフトとの接触や転倒事故のリスクが高まるからです。労働安全衛生法 第604条では「粗な作業」に対して150ルクス以上と定められていますが、これは安全を守るギリギリの数値に過ぎません。
例えば、荷物の積み下ろしを行う動線上で、パレットのささくれや床の汚れを瞬時に認識できない環境は危険です。暗がりは整理整頓の意識も低下させるため、結果として物流効率の悪化や部材の紛失を招く原因にもなりかねません。
安全管理者として、床面の照度が均一に保たれているかを確認し、極端に暗い死角を作らない配置を心がけましょう。
設計室・製図室・制御室など高照度が必要なエリア
設計室や製図室、制御室といったエリアでは、JIS規格で「750ルクス」が推奨されています。細かい図面を読み込む作業や計器の数値を正確に読み取る作業には、高い集中力が必要だからです。
ただし、モニター画面を注視する制御室などでは、空間を明るくするだけでは不十分なケースも少なくありません。照明の光が画面に映り込む「グレア」が発生すると、見づらさから目の疲れや精神的なストレスが増幅してしまいます。これでは、長時間の監視業務においてヒューマンエラーが発生するリスクを高めてしまうことになるでしょう。
必要な明るさを確保しつつ、ルーバー付きの照明器具を選定するなど、反射を防ぐ「光の質」への配慮も忘れないでください。
事務所(2022年の事務所則改正対応)
従来の3区分は廃止され、一般的な事務作業には「300ルクス以上」が義務付けられました。そのため、工場内の事務所については、2022年の法改正で新設された基準を必ず遵守してください。
以前の「普通の作業は150ルクス」という認識のままでは、知らず知らずのうちに法令違反の状態に陥りかねません。特に、書類作成やデータ入力を行う執務スペースが、以前の基準のまま放置されていないか、早急な確認が必要です。
付随的な事務作業でも150ルクスが必要ですが、実務エリアと区別が曖昧な場合は、高い方の基準に合わせるのが無難です。総務担当者は、照度計で自社のオフィス環境を再測定し、新基準に適合しているか監査前にチェックを行いましょう。
参考:学校、オフィス等他施設の照度との比較
自社の照度が十分かを判断する際、身近な「生活空間」の明るさと比較してみると、現状の課題が理解しやすいです。例えば、リラックスを目的としたリビングの照度は一般的に150〜300ルクスですが、商品を鮮明に見せるコンビニエンスストアは1000ルクスを超えています。
工場での検品や加工作業は、コンビニで商品の裏書きを確認するよりも遥かに高度で集中力を要する視覚作業です。それにもかかわらず、もし現場がリビング並みの薄暗さだとしたら、作業員がどれほど過酷な環境で目を酷使しているかが想像できるのではないでしょうか。
「文字が読めるから問題ない」という基準ではなく、「微細なキズや異物を瞬時に判別できるか」という視点で、商業施設の明るさをベンチマークにしてみてください。
照度が不足すると起きる問題|作業ミス・事故・品質低下のリスク
照度不足の工場では、重大な労働災害や品質トラブルのリスクになりえます。作業者の健康被害を未然に防ぐために、ここでは暗さが引き起こす具体的な以下の4つの弊害を把握しておきましょう。
- 転倒・つまずき事故の増加
- 影や視認性の低下による作業効率ダウン
- 検査不良・トレーサビリティ問題など品質への影響
- 眼精疲労や集中力低下による作業者の健康影響
転倒・つまずき事故の増加
照度不足によって、通路の段差や床面の凹凸、あるいは放置された資材などが見えづらくなるため「転倒・つまずき事故」の原因となりえます。
特に倉庫やバックヤードは生産ラインよりも照明が暗く設定されがちで、リスクが高まります。高齢のベテラン従業員が増えている現場では、視力の低下に伴い、わずかな段差でも大きな怪我につながりかねません。
労働安全衛生規則には具体的な数字は記載されていませんが、通路には常時適度な明るさを確保することが義務付けられています。
第541条
事業者は、通路には、正常の通行を妨げない程度に、採光又は照明の方法を講じなければならない。ただし、坑道、常時通行の用に供しない地下室等で通行する労働者に、適当な照明具を所持させるときは、この限りでない。
まずは照度計を使って、死角となりやすい通路や階段の明るさが「正常の通行を妨げない程度」かどうかを確認してください。
影や視認性の低下による作業効率ダウン
照明の配置が不適切で作業者の手元に影が落ちると、作業効率は著しく低下します。筆者は放電加工機のワークの穴を測定した経験では、たまたま照明が切れた時、顔を近づける動作が多く発生し、作業効率が極めて悪くなりました。
天井の照明だけでなく、作業者の背後や機械の陰にならない位置への器具配置が重要です。明るい電球に変えること、そして光の当たる角度を見直すことで作業効率は十分に向上させられます。
現場の保全担当者は、作業者の実際の立ち位置を確認し、影のできない照明レイアウトを設計しましょう。
検査不良・トレーサビリティ問題など品質への影響
適切な照度が確保されていない環境は、不良品の流出や異物混入といった品質トラブルを招きます。例えば、顕微鏡のライトが消えかかっている状態で品質検査を想像してみるとわかりやすいと思います。数ミリmmの誤差の測定や小さな傷を発見するのは極めて難しくなるはずです。
仮に不良品が流出すれば、回収コストがかかり、企業の信用・信頼も失いかねません。特に外観検査の工程では、JIS推奨値である1000ルクス以上の明るさと、正しい色が見える演色性が必須です。品質管理を適切に行うのであれば、まずは品質不良が見える環境を整えてください。
眼精疲労や集中力低下による作業者の健康影響
暗い場所での長時間の作業は、眼精疲労などの健康影響が発生し、集中力低下を引き起こします。また、金属部品の反射などによる「グレア(まぶしさ)」も、作業者の集中力を奪う要因となりえます。
疲れが蓄積した状態では、注意力が散漫になり、結果としてヒヤリハットやミスの誘発につながりかねません。従業員の健康を守り、長く働いてもらうためにも、目に優しい光の質にこだわることが大切です。
照度基準を満たすための“3ステップ改善法”
読者の現場の現状を正しく数値化し、照度不足の根本原因を特定した上で対策を講じるプロセスが必要です。そこで、照度基準を満たすための具体的な3つの手順を解説します。
- ステップ1|照度測定の手順(測定点・高さ・環境条件)
- ステップ2|照度不足の原因分析(天井高・器具配置・反射率)
- ステップ3|改善策の優先順位づけ(配置変更・増灯・環境調整)
また、照明計画書・照度分布図の読み方についても解説します。
ステップ1|照度測定の手順(測定点・高さ・環境条件)
まずはJIS C 7612*3に基づき、現状の照度を正確に数値化することから始めましょう。感覚的な「暗い」という判断だけでは、労働基準監督署の監査時に対抗できる客観的な証拠になりません。測定には必ず、JIS C 1609*4に適合した照度計を使用してください。
JIS C 7612に基づくと、測定位置は実際に作業を行う「机上面」、あるいは作業台がない場合は「床上80±5cm」の高さが基準です。部屋全体を一定間隔のグリッドに分け、各中心点を測定する「点法」を用いるのが一般的です。この際、外光が入ると正確なデータが取れないため、夜間に測定するか遮光カーテンで窓を覆う必要があります。
ステップ2|照度不足の原因分析(天井高・器具配置・反射率)
測定数値が、例えば設計・製図なら750ルクス以上などの基準を下回っていた場合、原因を特定してください。照度不足の原因は、ランプの寿命や汚れだけとは限らず、レイアウト変更に伴い照明器具の位置と作業場所がズレてしまっているケースなども考えられます。
また、意外と見落としがちなのが、壁や床、天井の「反射率」です。工場特有の油煙や粉塵で内装が黒ずんでいると光を吸収してしまい、いくら明るい照明を入れても空間全体が暗く沈んでしまいます。
さらに、照明器具の取り付け高さが適切でないために、光が拡散しすぎている可能性も考えられるでしょう。こうして原因分析を行い「光源が弱いのか」「環境が光を殺しているのか」を見極めることが重要です。
ステップ3|改善策の優先順位づけ(配置変更・増灯・環境調整)
原因が判明したら、費用対効果が高い順に優先順位をつけて、改善策を実行してください。最初に考えられる低コストの改善策が、既存の照明器具と反射板(セード)の清掃です。5Sの清掃を心がけるだけで照度が回復することも珍しくありません。
次に検討すべきは、内装の環境調整や作業レイアウトの見直しです。「壁を白く塗装し直して反射率を上げる」「作業者の背後に光源が来ないよう配置を変える」といった対策だけども、手元の明るさは劇的に改善します。それでも不足する場合に初めて、高効率LEDへの交換やタスクライト(局所照明)の増設を検討しましょう。
いきなり全館LED化などの高額な設備投資をするのではなく、現場の工夫で改善できる余地を探ってください。
照明計画と照度計算の基礎(照明計画書・照度分布図の読み方)
継続的な照度管理を行うためには「照明計画書」や「照度分布図」を読み解く知識が求められます。こうした知識は、どのエリアがどれくらいの明るさになるかをシミュレーションした資料であり、設備導入時に役立てられます。
特に重要な指標が、ランプの経年劣化や汚れを見越した「保守率」です。JIS Z 9110(照明基準総則)において、推奨照度は「常に確保されるべき維持照度」と定義されています。そのため、設置直後の明るさだけでなく、将来的に照度が低下しても規格値を維持できる設計になっているかの確認が必要です。
また、照度分布図を見る際は、光のムラを示す「均斉度」にも注目しましょう。極端に明るい場所と暗い場所の差が大きいと、瞳孔の調整機能に負荷がかかり、作業者の眼精疲労や転倒事故の原因になります。JISでもエリア内の均斉度(最小照度/平均照度)は0.6以上などの基準が設けられており、基準を満たすことが安全な視環境の条件と言えます。
作業環境を根本から良くするには|照度+光の質を高める4つの対策
労働災害を防ぎ、検品ミスを減らすには、JIS規格に基づいた光の質への対策が必要です。現場の安全と生産性を向上させるために、ここでは具体的な以下の4つの改善策を解説します。
- グレア(まぶしさ)対策|作業者が見やすい環境をつくる
- ちらつき(フリッカー)抑制|疲労を減らすポイント
- 均一照度を確保する器具配置の考え方
- 影を作らない作業環境づくり(位置・角度・補助照明)
グレア(まぶしさ)対策|作業者が見やすい環境をつくる
作業者の安全と健康を守るためには、高輝度な光が直接目に入る「グレア(まぶしさ)」の抑制が必要です。JIS Z 9110(照明基準総則)においても、視作業の快適性を損なう不快グレアの制限が推奨事項として明記されています。
強すぎる光は視界を白く飛ばしてしまい、深刻な労働災害や、眼精疲労による体調不良を引き起こしかねません。特に、視力の低下が始まる中高年齢層の従業員にとって、まぶしさは大きなストレス要因となります。
具体的な対策として、光源に乳白色のカバーやルーバーを取り付け、鋭い直接光を柔らかく拡散させる方法が有効です。また、照明器具の取り付け位置や角度を微調整し、作業者の通常の視野内に光源が入らないような工夫も求められます。
ちらつき(フリッカー)抑制|疲労を減らすポイント
長時間の精密作業における疲労軽減には、照明の「ちらつき(フリッカー)」対策が極めて重要です。人間の目には感知できない高速な点滅であっても、脳は視覚野を通じて刺激を受け続け、慢性的な頭痛や吐き気の原因となります。
特に、旋盤やプレス機などの回転機器を扱う金属加工の現場では、回転体が止まって見える「ストロボ効果」が発生する恐れがあります。これは稼働中の機械に誤って触れてしまう重大事故に直結するため、安全管理上、絶対に見過ごせません。
リスクを排除するには、直流電源方式のLEDなど、フリッカーレス仕様や高周波点灯の照明器具を選定してください。安価な粗悪品はちらつきが多い傾向にあるため、導入前にはスペック表を入念に確認することをおすすめします。
均一照度を確保する器具配置の考え方
作業エリア内での明暗差をなくし、空間全体で均一な明るさを確保する器具配置の計画が必要です。極端に明るい場所と暗い場所が混在していると、人間の目は移動のたびに瞳孔の拡大・縮小(順応)を繰り返します。こうした現象が無意識のうちに自律神経へ負荷をかけ、作業者の集中力低下や蓄積疲労を招く可能性があります。
そのため、JIS Z 9110では、作業面の均斉度(最小照度÷平均照度)を0.6以上とするようにしているのは事実です。照明器具の間隔が広すぎると照度ムラが生じるため、メーカーの配光曲線データに基づいた適切なピッチで配置しましょう。また、レイアウト変更があった場合は、什器による影も考慮して再設計する必要があります。
影を作らない作業環境づくり(位置・角度・補助照明)
どれほど部屋全体の平均照度が高くても、肝心の手元が自身の体や機械の影に入ってしまっては、作業効率は著しく低下します。微細なキズや汚れを見落とす検品ミスは、こうした「意図しない影」が原因で発生するケースが少なくありません。
対策として、天井からの全般照明に加え、多方向から光を当てることで影を打ち消す配置を検討してください。それでも解消できない入り組んだ部分の作業には、角度調整が可能なタスクライト(局部照明)の併用が必須となります。
死角のないクリアな視界を作ることで、労働災害のリスクを抑え、誰もが安心して働ける職場を実現しましょう。
【用途別】工場内エリアごとの照明設計のポイント
工場照明は、全館を明るくすれば良いという単純な話ではありません。JIS規格(JIS Z 9110)に基づき「作業内容や設備に応じた適切な照度設計を実施する」というコストを意識した経営戦略に近いです。ここでは具体的に工場内エリアごとの照明設計のポイントとして以下の順に解説します。
- 生産ラインの照度確保方法
- 検査エリアの均一照度を実現する配置
- 倉庫エリア(棚・通路)での死角防止
- 事務所・設計室(視作業に適した環境づくり)
生産ラインの照度確保方法
生産ラインでは、天井からの「全般照明」と手元を照らす「局所照明」の組み合わせが必要です。JIS Z 9110に基づくと、通常の製造工程では500ルクス以上、精密作業では750ルクス以上の照度が求められます。しかし、天井灯だけでは作業者の背中で影ができ、手元の視認性が低下する可能性があります。
対策として、ライン上の真上にライン照明を増設するか、角度調整可能なタスクライトを導入すべきです。特に切削や組立を行う手元には、影ができにくい多重影対策済みのLEDを選定しましょう。
また、光のチラつき(フリッカー)は回転機器の静止錯覚を引き起こし事故に繋がるため、フリッカーレス仕様の器具が必須です。
検査エリアの均一照度を実現する配置
検査工程においては、「光の質」と「均一性」も重要視されます。JIS規格では、極めて細かい視作業に対して1500ルクス以上を推奨していますが、光沢のある金属部品を扱う場合、強い光は反射グレア(まぶしさ)となり逆効果です。検査員の眼精疲労を防ぐため、拡散カバー付きの照明や間接照明を用い、柔らかい光を均一に当てる工夫が求められます。
さらに、色味の正確な判断が必要な塗装検査などでは、演色性(Ra)の高い照明器具を選定してください。一般的なLEDはRa70〜80程度ですが、検査用にはRa90以上の高演色モデルが推奨されます。また、照明の映り込みを利用して表面のキズを発見する手法もあるため、検査対象物の特性に合わせて、あえて指向性の強い光源を補助的に配置するのも有効です。
倉庫エリア(棚・通路)での死角防止
倉庫エリアの照明設計では「床面の明るさ」以外に「鉛直面照度(縦方向の明るさ)」の確保も必要となります。一般的なダウンライトでは棚の上部や側面に光が回らず、ラベルの読み間違いによるピッキングミスやフォークリフトの死角の発生が起こるからです。そうしたことから、JIS Z 9110でも、荷の積み下ろし作業には一定の照度として150ルクスを推奨しています。
具体的な対策として、通路の中央ではなく棚側に向けて配光制御された照明器具を採用し、棚の商品面を直接照らす配置が効果的です。また、人が不在の時間が多いエリアでは、人感センサー付きLEDの導入がコスト削減になります。ただし、フォークリフト走行時はセンサーの反応遅れが事故に繋がる恐れがあるため、即時点灯するタイプを選び、最低限の常夜灯を併用するなど安全面への配慮も忘れてはいけません。
事務所・設計室(視作業に適した環境づくり)
事務作業や設計製図を行うエリアでは、「視覚表示装置(VDT)を使用する視作業のための照明」規定に基づいた環境整備が必要です。パソコン画面への照明の映り込みは、著しい視力低下や肩こりの原因となります。
推奨照度は、一般的な事務室で750ルクスです。しかし、明るすぎると画面とのコントラスト比が高まり目が疲れるため、調光機能付きの器具で時間帯や外光に合わせて調整できる環境が理想です。また、設計業務などで色の識別が重要な場合は昼白色、リラックス効果を持たせたい休憩スペース兼用のエリアなら温白色を選ぶなど、色温度の使い分けも効果的だと考えられます。
照度改善の実例|“配置と運用”だけで改善した事例
照度改善に、必ずしも大規模な設備投資は必要ありません。ここでは照明の「配置見直し」や測定の「ルール化」といった運用の工夫だけで、作業ミスや事故を劇的に減らした事例として以下の2つを解説します。
- 照度不足による作業ミスが減少したケース
- 器具配置の見直しだけで作業効率が向上した例
照度不足による作業ミスが減少したケース
人間の目は、暗い環境や急激な明暗差に即座に対応できません。そのため、適切な照度管理は、目の限界を設備側で補い、ヒューマンエラーを物理的に防ぐのに有効と言えます。以下に、数値改善が成果に繋がった実例を解説します。
| 事例 | 問題点(Before) | 改善点(Action) | 改善後(After) |
|---|---|---|---|
| 事例1 精密機器工場 | 精密計器室の照度が220lxしかなく、視作業が困難で製品の欠陥が見逃されやすい環境だった。 | 作業内容に合わせて照度を1,600lx(約7倍)に増強し、グレア(まぶしさ)防止の配置も行った。 | 微細な欠陥の識別が可能になり、製品の不合格率が0.03ポイント減少(1.09%→1.06%)した。 |
| 事例2 氷製造工場 | 冷蔵庫内外の著しい「明暗差」により、フォークリフト運転者の目が慣れず、衝突や転倒の危険があった。 | 照度計で現状を測定し、暗所に照明器具を増設して、エリア間の極端な照度差(コントラスト)を解消した。 | 視覚疲労と視認不足が解消され、車両の衝突リスクや床面の氷による転倒災害を防止できた。 |
事例1*5では、精密機器工場の作業室照度を従来の220lxから1,600lxへ約7倍に増強。その結果、微細な部品の視認性が向上し、製品の不合格率が1.09%から1.06%へと改善、生産効率も向上しました。
事例2*6では、冷蔵庫内外の急激な「明暗差」がフォークリフト事故の要因となっていました。そこで照度測定を行い照明を増設して明暗差を解消。視覚の一時的な停止(順応遅れ)による衝突や転倒リスクを低減できました。
器具配置の見直しだけで作業効率が向上した例
愛知県の段ボール製造機械メーカーの株式会社ISOWA*7は、照明器具の交換だけでなく、現場の作業実態に合わせた「配置の見直し」で大きな成果を上げています。
| 事例 | 問題点(Before) | 改善点(Action) | 改善後(After) |
|---|---|---|---|
| 株式会社ISOWAの事例 (段ボール製造機械) | 天井が高く(最大11m)、水銀灯の老朽化で照度が低下(大物加工工場で175lx)。クレーンの影ができる課題もあった。 | LED化と共に、クレーンの影にならない位置へ器具配置を変更。照度シミュレーションでムラのない均斉度を確保した。 | 大物加工工場の照度が363lx(約2倍)に向上。明るく影のない環境となり、消費電力は61.3%削減(年間約13万kWh減)された。 |
同社では、既存の183台の水銀灯などをLEDへ更新する際、天井クレーンの影になってしまう箇所の照明位置を意図的にずらして設置しました。さらに、事前に照度シミュレーションを行い、光のムラが発生しない最適な配置と型番を選定しています。
結果として、消費電力を61.3%削減しながらも、現場の照度は最大で約2倍に向上。クレーンの影による「見えにくさ」を解消し、社員が働きやすい明るい職場環境を実現しました。
工場照度は“環境”と“人”の両面から改善することが重要
JIS規格に基づき照明環境を整えることは重要ですが、まだ不十分です。具体的にはハード(照度)とソフト(人)の両方の対策が必要となります。ここでは具体的に以下の2点を解説します。
- 照度改善の効果を最大化するには、“ヒト”の対策も欠かせない
- 検査員のスキルや業務品質は「動画」で標準化することが効果的
照度改善の効果を最大化するには、“ヒト”の対策も欠かせない
照明をLED化して現場を明るくしただけでは、まだ十分とは言えません。最終的に品質を担保し、安全を守るのは、「人」のスキルだからです。いくら手元の照度が基準値を満たしていても、作業者が「どこを重点的に見るべきか」や「正しい判断基準」を理解していなければ、照度改善の効果は半減してしまいます。
実際に、ベテランは光の反射を巧みに利用して微細なキズを見抜きますが、経験の浅い作業者は同じ環境でも見逃すことがあります。これは環境のせいではなく、技術伝承の滞りが原因です。高額な設備投資を無駄にしないためにも、ハード面の整備と同時に、作業者全員がバラつきなく業務を遂行できる「教育の仕組み」を見直す必要があります。
検査員のスキルや業務品質は「動画」で標準化することが効果的
作業品質のバラつきを解消し、誰でも同じ成果を出すには「動画」による標準化が適しています。特に検査や加工作業における「微妙な力の入れ具合」や「光の当て方」といった暗黙知は、文字ベースの紙マニュアルでは正確に伝わりにくいからです。
動画であれば、熟練者がどの角度から製品を見て、どのタイミングで判断しているか、その「動き」をそのまま再現可能です。言葉の壁がある外国人労働者に対しても、直感的に正しい手順を教育できる点は大きなメリットと言えるでしょう。さらに、動画マニュアル作成ツールを活用すれば、現場で撮影してすぐに教育資料として展開できます。
例えば、サラヤ株式会社では、明るい場所で治具をボトルのどの位置にセットし、中心から外側へ向かって「どのように指を動かせば空気が抜けるか」という熟練者のコツを動画化しています。
▼動画マニュアルによる標準化の例▼
こうした文字では伝わりにくい力加減やスピード感まで可視化されるため、日本語が得意でない外国人労働者でも簡単に「正解の動き」を再現できます。
まとめ|照度基準の理解と正しい改善手順が現場の安全と品質を高める
工場の照度管理は、法的リスクの回避だけでなく、現場の「安全」と「品質」を底上げする重要な取り組みです。まずは労働安全衛生法とJIS規格の違いを正しく理解し、自社のエリアごとに適切な基準値を設定しましょう。
ただし、ハード面の環境整備だけでは十分とは言えません。明るくなった現場で成果を出し続けるには、作業者一人ひとりのスキルを「動画」などで標準化し、人的ミスを防ぐソフト面の対策が必要です。「適切な照度」と「正しい教育」で現場を回すことで、誰が作業しても高品質を維持できる、強い現場作りを目指してください。
参考元/引用元
*1:日本産業規格の簡易閲覧「JISZ9110:2011 照明基準総則」
*2:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「職場における労働衛生基準が変わりました」
*3:日本産業規格の簡易閲覧「JISC7612:2011 照明測定方法」
*4:日本産業規格の簡易閲覧「JIS C 1609-1:2006 照度計」
*5:照明学会関西支部 生産照明研究委員会委員長 清水寿栄次著「生産照明研究調査報告(抜粋)」
*6:東京労働局「高年齢労働者に配慮した職場改善事例 事例11」
*7:経済産業省「カーボンニュートラル実現を目指す企業のための中部地域の省エネ推進企業事例」











