製造現場や化学プラントにおける化学物質の取扱いは、引火・爆発や有害ガスの吸入など、重大な労災につながる危険を多く伴う作業です。
平成28年にリスクアセスメントの実施が義務化された後、さらに令和4年公布(令和6年施行)の法改正により、化学物質規制は事業者自身の「自律的管理」へと大きく移行しました。対象物質も大幅に拡大するため、「物質数が多すぎて手が回らない」「書類の評価だけで実際の事故を防げるのか」といった現場の課題があります。
そこで本記事では、工場の勤務経験がある筆者の観点も踏まえ、化学物質で実際に発生した事故事例やヒヤリハット例にもとづきながら、具体的なリスク評価の手順から現場にルールを定着させる安全対策までを解説します。
目次
製造業における化学物質リスクアセスメントの重要性
化学物質を取り扱う製造現場において、リスクアセスメントが作業員の命を守ります。法改正による義務化の背景から、現場に潜む見えないリスクの実態まで、安全責任者が知るべき重要性を次の順で解説します。
- 製造現場でリスクアセスメントが必須である理由(法改正の背景)
- 労働災害の約8割は「規制対象外」の物質で起きている
- 生産ラインにおける化学物質の「見えないリスク」と事故事例
製造現場でリスクアセスメントが必須である理由(法改正の背景)
製造現場におけるリスクアセスメントの実施は、現在すべての企業で必須の取り組みです。平成28年6月1日に労働安全衛生法が大きく改正され、業種や事業場の規模を問わず義務化されました。厚生労働省 職場のあんぜんサイト*1によると、製造業だけでなくサービス業など様々な業種が対象として明記されています。
さらに令和4年公布・令和6年全面施行の法改正により、新たな化学物質規制が開始しました。厚生労働省の資料*3に基づくと、国による個別規制から事業者自身の自律的管理へと大きく移行しました。国内で流通する数万種類の化学物質には、危険性が不明なものが多数含まれています。そのため、有害性が確認されたすべての物質が順次リスク評価の義務対象へ追加されます。
こうした背景から、現場管理者はリスクを見積もり、作業員のばく露を基準値以下に抑えなければなりません。
労働災害の約8割は「規制対象外」の物質で起きている
実は労働災害の大部分が、法令で厳しく規制されていない物質によって引き起こされています。国の個別具体的な規制だけでは、膨大な種類の化学物質すべてを網羅しきれないためです。
厚生労働省によると*3、がん等の遅発性疾病を除いても年間450件程度の労災が推移してきました。これまでの法律では、約120物質のみが特定化学物質などとして厳格な規制の対象でした。
しかし、実際の労働災害の約8割*5は、それ以外の「規制対象外」であった物質で発生しています。洗浄剤や接着剤など、日常的に使用するものであっても重大な事故に繋がるリスクがあります。そのため、法規制の有無に関わらず、現場ごとの網羅的で入念なリスク評価が強く求められます。
生産ラインにおける化学物質の「見えないリスク」と事故事例
生産ラインには、目視では気付きにくい化学物質特有の重大な危険が常に潜んでいます。揮発した有害なガスや見えない粉じんは、無意識のうちに体内に取り込んでしまうためです。具体的な事故として、屋外でのスプレー塗装に関する労災事例をここで見てみましょう。
厚生労働省が発表した事例*2に基づくと、建築現場の作業員が塗料とシンナーを用いた吹付作業中に倒れる事故が起きました。作業員は当初マスクを使用していましたが、途中からタオルをマスク代わりにして作業を続けます。
換気の悪い狭い場所で長時間作業した結果、翌日に病院で有機溶剤中毒と診断されました。有効な保護具の未着用や、危険性に対する認識の甘さが招いた典型的なヒューマンエラーと言えます。見えないリスクから作業員を守るためにも、確実なリスク評価と現場教育の徹底が欠かせません。
製造業が直面する法的義務と「自律的管理」
製造現場を取り巻く法規制が大きく変わり、企業自らがリスクを評価して対策を講じる「自律的管理」が求められています。ここでは現場に必要な知識として具体的に次の3つを解説します。
- リスクアセスメント対象物質の大幅拡大(約2,900物質への対応)
- 新たに選任必須となった「化学物質管理者」の役割と現場での動き方
- 違反時のペナルティと事業者の責任範囲
リスクアセスメント対象物質の大幅拡大予定(約2,900物質への対応予定)
労働安全衛生法の関係政省令の改正により、令和8年4月1日よりリスクアセスメントの対象となる化学物質が約2,900種類へと大幅に拡大*6予定です。未知の危険性を持つ化学物質による労働災害を防ぐため、規制の基軸が自律的管理へと移行したためです。
厚生労働省の資料*3に基づくと、国がGHS分類で危険有害性を確認したすべての物質が順次義務対象に追加されます。これまで規制対象外だった身近な洗浄剤や補助材料なども、新たに厳格な評価対象となる見込みです。
現場では労働者のばく露を最小限に抑え、濃度基準値設定物質については基準値以下にすることが求められます。具体的に現場では、推定ツールや個人ばく露測定を組み合わせた確認手法が効果的です。
また皮膚等への障害を引き起こす物質に対しては、適切な保護具の着用が新たに義務化されました。対象物質の評価漏れによる法令違反を防ぐため、まずは自社で扱う全物質のSDSを早急に見直しましょう。
新たに選任必須となった「化学物質管理者」の役割と現場での動き方
対象物質を取り扱うすべての事業場において「化学物質管理者」の選任が新たに義務付けられました。*6自律的管理を現場に定着させるため、専門的な知見を持つ統括責任者が現場ごとに必要となるからです。
厚生労働省*3によると、業種や事業場規模を問わず、工場や営業所などの事業場ごとに管理者の配置が必要となります。主な職務は、SDSの確認やリスクアセスメントの実施管理、ばく露防止措置の選択から周知まで多岐にわたります。
さらに、労働者に保護具を使用させる現場では「保護具着用管理責任者」の選任も別途必須の条件です。
衛生委員会において自律的な管理の実施状況を調査審議するなど、管理体制の構築が急務と言えます。
違反時のペナルティと事業者の責任範囲
法改正によって、労働者の安全を確保する姿勢がこれまで以上に厳格化されたため、法令違反や適切な管理を怠った場合、企業は重い行政指導や法的責任を問われるリスクを抱えます。
厚生労働省の規定*3に基づくと、管理が不適切で労災の恐れがある事業場には、労働基準監督署長から直接的な改善指示が出されます。指示を受けた企業は、外部の専門家から助言を受けたうえで、速やかに改善計画を作成しなければなりません。
また、作業環境測定で第3管理区分に該当した場合、呼吸用保護具の確実な装着や労基署への届出などが厳しく要求される点に注意が必要です。万が一対策を怠って重大な事故が発生すれば、企業名の公表や甚大な損害賠償責任のペナルティが発生します。
製造現場のリスクアセスメント対象
製造現場には、製品の原材料から日々のメンテナンスで使用する消耗品まで、多種多様な化学物質が存在します。ここでは、見落としがちな対象物質を洗い出し、現場の隅々までリスク評価を徹底するポイントを次の順で解説します。
- 主要な化学物質の総点検(原材料、洗浄剤、塗料)
- 補助材料(切削油)や「作業で生まれる」副生成物
主要な化学物質の総点検(原材料、洗浄剤、塗料)
製造現場で扱う原材料や洗浄剤、塗料などの主要な化学物質はリスク評価の対象として総点検すべきです。令和8年4月1日より、約2,900物質に対応する必要があり、これまで規制外だった物質も新たに含まれる可能性が高いからです。
厚生労働省の資料*3によると、GHS分類で危険性が確認された物質が順次義務対象として追加されます。例えば、屋外塗装に使うスプレー*2に含まれるキシレンなどは典型的な対象物質と言えるでしょう。
また、厚生労働省*6からは、別の容器に移し替えて保管する際にの危険性の伝達が義務付けられています。日常的に消費する洗浄剤なども、SDSを入手して有害性を正確に確認しなければなりません。
皮膚刺激性のある物質が混入している場合は、適切な保護手袋などの選定も急務となるはずです。法令違反や予期せぬ労災事故を防ぐために、発注部署と連携した対応が必要です。
補助材料(切削油)や「作業で生まれる」副生成物
製品に直接使われない補助材料や、工程で発生する副生成物も、厳格な評価の対象に含めるべきです。一見安全な作業環境でも、化学変化によって見えない有害物質が発生し、作業者がばく露する危険があるためです。
粉砕作業中の事例*4に基づくと、結晶状の4-クロロアニリンを粉砕する作業中に排気能力が低下しアニリン中毒が発生しています。本事例は「事業場で、化学物質に対するリスクアセスメントの実施とそれに基づく作業手順書の作成がされていなかったこと」が原因として挙げられます。さらに、加熱や粉砕といった作業で生まれる副生成物に事故のリスクが潜んでいると言えるでしょう。
また、工作機械に使う切削油などの補助材料も、作業員の健康を脅かす要因となります。厚生労働省によれば*6、皮膚から吸収される有害物質に対しては、適切な保護具の着用が強く求められます。
作業の過程で何が発生するかといった視点を持って、リスク要因の洗い出しを徹底してください。
実践:製造工程別リスクアセスメントの手順
作業工程ごとの危険性の特定から、ツールの活用による効率的なリスクの見積もりまで、担当者が知るべき実践的なステップは次の通りです。
- ステップ1:工程・作業ごとの危険性特定(混合、加熱、噴霧など)
- ステップ2:作業者の「ばく露」を見積もる(吸入・経皮吸収のリスク)
- ステップ3:リスクレベルの決定(頻度 × 重篤度)
- 支援ツール「CREATE-SIMPLE」などを活用した効率的な評価手法
ステップ1:工程・作業ごとの危険性特定(混合、加熱、噴霧など)
最初に行うべきステップは、製造工程ごとに潜む化学物質の危険性を具体的に特定することです。工程全体を一括りで評価すると、現場の細部に潜む致命的なリスクを見落としかねません。
厚生労働省のリスクアセスメントの 導入・実施手順*7によると、作業手順書をもとに「誰が」「どうなるか」等の事故シナリオを想定します。例えば、4-クロロアニリンの粉砕作業の事例*4では、排気設備の能力低下による有害物質の拡散が挙げられるでしょう。またスプレーによる屋外塗装作業*2のように、シンナー揮発による中毒の危険性も洗い出しの対象です。
混合や加熱といった物理的な変化を伴う工程では、予期せぬガス発生にも注意を払ってください。定常作業だけでなく、設備のメンテナンスなど非定常作業に潜むリスクも必ず確認しましょう。
ステップ2:作業者の「ばく露」を見積もる(吸入・経皮吸収のリスク)
次のステップでは、特定した危険物質に対して作業者がどれだけばく露するかを見積もります。物質自体の有害性が高くても、実際に触れる量が少なければ全体のリスクは下がるからです。
厚生労働省の資料*3に基づくと、法令では労働者のばく露を最小限度に抑えることが強く求められています。特に濃度基準値が設定された物質は、その基準を確実に下回るように管理しなければなりません。
さらに、ガスや粉じんの吸入だけでなく、皮膚から吸収されるリスクも評価対象です。有害な洗浄剤や切削油が直接肌に触れる作業では、経皮吸収の度合いも忘れずに考慮しましょう。
正確な見積もりのためには、作業環境測定や個人ばく露測定などの手法を取り入れてください。現場の換気状態や作業時間なども考慮し、作業者が受ける健康影響を精密に数値化することが重要です。客観的なデータに基づいて、目に見えない化学物質のばく露リスクを正確に把握していきましょう。
ステップ3:リスクレベルの決定(頻度 × 重篤度)
ばく露量を把握した後は、災害発生の可能性と重篤度を組み合わせてリスクレベルを決定します。限られたリソースの中で、どの危険要因から優先的に対策すべきかを明確にするためです。
厚生労働省のリスクアセスメントの 導入・実施手順*7に基づくと、重篤度を「死亡・重大・中程度・軽度」の4段階程度に区分けします。そこに作業頻度などを加味した「発生の可能性」を掛け合わせ、リスクの大きさを算出しましょう。
例えば、毎日行う粉砕作業で重大な健康障害の恐れがあるなら、優先度は最高レベルとなります。また、ランク分けよりも点数化を用いた評価の方が労災低減に効果的と言えます。
現場で評価のばらつきを出さないためにも、誰にでも分かりやすい判定基準を設けてください。主観に頼らない明確なルールで点数化し、リスク低減措置を実施する順番を確定させることが重要です。
支援ツール「CREATE-SIMPLE」などを活用した効率的な評価手法
膨大な物質の評価には、厚生労働省が提供する「CREATE-SIMPLE」*8の活用をおすすめします。濃度を実測せず選択肢を選ぶだけで複数のリスクを見積もれるからです。同資料に基づくと、数トンから極少量まで幅広い取扱量にしっかりと対応しています。
入力情報が危険有害性と自動で比較され、結果が素早く算出されます。結果として、吸入ばく露や経皮吸収の有害性も同時に推定可能です。着火源の有無等を入力すれば、爆発など危険性のリスクも判定できます。
化学物質リスクを低減するための対策
リスクを見積もった後は、実際の現場で労働災害を未然に防ぐための具体的な低減措置を実行しなければなりません。法令が定める優先順位に従い、設備改善から保護具まで、リスクを確実に下げる対策を解説します。
- 【管理的対策】作業手順書・マニュアルによる安全ルールの整備
- 【除去・代替】有害性の低い溶剤・工法への変更
- 【工学的対策】局所排気装置の設置・改善と密閉化
- 【個人用保護具】適切なマスク・耐薬品手袋の選定と着用徹底
【管理的対策】作業手順書・マニュアルによる安全ルールの整備
現場のリスクを管理するには、作業手順書やマニュアルの徹底的な整備が不可欠と言えます。明確な安全ルールがなければ、作業員の経験や勘に頼った危険な行動を招きやすくなるからです。
4-クロロアニリンの粉砕作業の事例*4に基づくと、有害物質に関する手順書の欠如が重大な中毒事故の原因でした。また、屋外塗装の資料*2によれば、取り扱う物質の危険性を知らないことがルール逸脱の災害に繋がります。
こうした事態を防ぐため、前節の手順に沿って危険有害性を十分に考慮した作業マニュアルを作成することが重要です。通常の定常作業だけでなく、トラブル発生時やメンテナンス等の非定常作業のルールも明文化しましょう。
講じた低減措置の内容は労働者の意見を聴取し記録を保存する義務があります。形骸化を防ぐ継続的な安全教育を実施し、全員が自発的にルールを守る現場環境を構築してください。
【除去・代替】有害性の低い溶剤・工法への変更
危険の除去や代替は、リスク低減措置の中でも効果的な安全対策となります。物理的・化学的な危険要因そのものを現場から排除すれば、ばく露の可能性を絶てるからです。厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」*7の指針に基づくと、作業の廃止や有害性の低い材料への代替が第一の優先順位として推奨されています。
具体的には、労働者のばく露を最小限にするため代替物の使用を検討する必要があります。また、屋外塗装の例では、引火のおそれがある場合は塗装方法の変更などでリスクを下げられるでしょう。有機溶剤を水性塗料へ変更したり、揮発性の低い洗浄液へ切り替えたりする工夫が現場には求められます。
設備の見直しに合わせて、危険性を排除する代替物質や新工法の導入を積極的に進めていきましょう。
【工学的対策】局所排気装置の設置・改善と密閉化
代替が困難な場合は、局所排気装置の設置・改善と密閉化によって作業環境の安全を確保する必要があります。設備を改善して有害物質を隔離すれば、作業者が直接ばく露する危険を物理的に遮断できるからです。
労働安全衛生法の新たな化学物質規制の資料*3に基づくと、発散源を密閉する設備や局所排気装置を設置・稼働することが義務付けられます。また、液体の移し替えに専用ポンプを使い装置を密閉化する工夫も効果的な対策と言えます。
一方で、4-クロロアニリンの粉砕作業の事例*4によると、局所排気装置の吸気能力低下が中毒事故の大きな要因となっていました。そのため、ただ設備を導入するだけでなく、フィルターの目詰まり等を防ぐ定期的なメンテナンスが非常に重要です。
【個人用保護具】適切なマスク・耐薬品手袋の選定と着用徹底
設備改善などの対策を行っても残るリスクに対しては、適切な個人用保護具の使用が必要となります。皮膚刺激性や経皮吸収の恐れがある物質には保護手袋や保護衣の着用が義務であり、さらに呼吸用保護具を使用させる現場では保護具着用管理責任者の選任が必須とされています。
ただし、適切な保護具でも正しく装着していなければ十分な効果が得られない点に注意が必要です。マスクのフィットテストを実施し、フィルターの交換時期を厳格に管理する体制を現場で構築してください。
リスクアセスメントの定着を図るためのポイント
現場の安全を守るには、リスクアセスメントを一度の実施で終わらせず、継続的な活動として現場に定着させることが必要です。記録の保管や教育を通じて、安全ルールを形骸化させないための重要なポイントを次の順に解説します。
- リスクアセスメント結果の記録・保存と作業者への周知義務
- ヒヤリハット事例の共有と再評価のタイミング(4M変更時など)
- 現場作業者に安全ルールを浸透させる現場教育
リスクアセスメント結果の記録・保存と作業者への周知義務
リスクアセスメント結果を記録して周知させる仕組みは必要です。周知せずに新人が作業した場合は、事故に繋がる可能性が高いですし、「ベテランなら危険を回避できる」と個人の裁量を許す現場は危険があります。
リスクアセスメント結果やルールを全員が確認できる仕組みを整えましょう。例えば、明和工業株式会社では、作業場にタブレット端末を設置しました。QRコードで即座に標準作業や安全基準の動画を呼び出せる仕組みを現場に設けています。

このように、いつでも結果や正しい手順を確認できる環境づくりが周知徹底にも有効です。
法令でも、アセスメント結果や講じた措置の記録は最低3年間保存する義務があります。さらにがん原性物質に関する作業記録などは、30年間の長期保存が必要です。「いつも通り安全だ」という人の感覚に頼らない体制を構築してください。
ヒヤリハット事例の共有と再評価のタイミング(4M変更時など)
労災の再発を防ぐには、ヒヤリハット事例など「正しい作業」の的確な共有が必要です。「薬品に注意」といった文字の報告書で伝達しても、作業員が自分ごととして理解するのは難しいと言えます。危険の恐ろしさが伝わらなければ行動変容には繋がらず、同じミスを繰り返す結果を招いてしまうでしょう。
例えば株式会社神戸製鋼所では、紙とOJTによる教育のムラが作業のバラツキを生む課題を抱えていました。そこで、微妙なニュアンスやカン・コツが伝わりやすい動画のマニュアルに移行しました。結果として、教育者による教え方のブレがなくなり、安全品質を安定させることに成功しています。
化学プラントでも同様に、ヒヤリハットの瞬間や正しい回避動作を映像で共有しましょう。4M変更時など再評価のタイミングで組織全体に周知し、労災の再発防止を徹底させてください。
現場作業者に安全ルールを浸透させる現場教育
安全ルールを浸透させるためには、現場教育を徹底的に標準化する必要があります。誰が作業しても同じ安全行動を完璧に再現できる、明確な基準が必要となるからです。マニュアル化の際は、新人でもベテランでも同じ手順で安全を確保できなければいけません。従来の紙の手順書では危険の度合いが分かりづらく、外国人労働者には正しく伝わらないでしょう。
そこで、紙ではなく具体的な安全作業の手順を動画化したのが児玉化学工業株式会社です。複雑な設備操作を視覚的に伝えることで、作業者ごとの曖昧な理解をなくしました。
▼動画マニュアルによる標準化の例▼
動画による標準化は、化学物質リスクアセスメントの現場教育にも確実に応用可能です。「正しい保護具の着脱」などの微細な動作を映像で教育し、ルールの浸透を図りましょう。
よくある現場の課題と解決策
化学物質のリスクアセスメントを現場に導入する際の共通の悩みがあります。ここでは、具体的な課題と解決策を次の順で解説します。
- 「物質数が多すぎて手が回らない」時の優先順位の付け方
- 「保護具をつけると作業効率が落ちる」という現場の声への対処
- コストを抑えつつ効果的な換気対策を行う工夫
「物質数が多すぎて手が回らない」時の優先順位の付け方
対象の化学物質が膨大で手が回らない時は、重大な事故につながりやすい作業から優先的に評価を進めましょう。今後約2,900種類規模へと拡大していく現状において、化学物質すべてを一度にアセスメントすることは、現場の負担が大きく現実的ではないと言えます。
厚生労働省の指針*7に基づくと、過去に労働災害やヒヤリハット事例が発生した作業から着手することが推奨されています。また、取扱量が数トンなど大量に消費する工程も、優先順位を高く設定するべき対象と言えるでしょう。
さらに、がん原性物質など特に有害性が高い指定物質から順にリストアップすることも有効な手段です。特定作業には、作業手順書や対象物質のSDSに記載された情報を徹底的に活用してください。
「保護具をつけると作業効率が落ちる」という現場の声への対処
保護具の着用に対する不満には、なぜそれが必要かを丁寧に説明し、作業性とのバランスを見直すことが重要となります。危険有害性を理解していないことによるルールの逸脱が、重大な労働災害を引き起こす原因となるからです。
厚生労働省の資料*2に基づくと、不適切な保護具の使用や未着用は、中毒などの事故に繋がる危険な行動と言えます。また、ばく露を最小限にするため有効な呼吸用保護具の使用が法令で義務付けられました。 作業効率の低下を防ぐには、保護具の製造者から直接指導を受け、作業に適した製品を再選定するのも一つの手段でしょう。
さらに、対策の優先順位を見直し、代替物質への変更や工学的対策を再検討してください。作業員の声を無視せず、対話を通じて双方が納得できる安全かつ効率的な現場環境を構築していきましょう。
コストを抑えつつ効果的な換気対策を行う工夫
設備投資が難しい場合は、作業手順の工夫や既存設備のこまめなメンテナンスで換気効率を高めましょう。高価な装置を新設せずとも、日々の運用方法を改善するだけで有害物質のばく露リスクを大きく低減できるからです。
厚生労働省*2によると、作業位置を気流の風上に設定するだけでも、溶剤蒸気の吸入を防ぐ効果が期待できます。さらに、使用時以外は容器の蓋をきちんと閉め、揮発ガスの拡散を根本から防ぐ運用も欠かせません。コストをかける前に現場の基本動作を見直し、既存の換気設備を最大限に活かす安全対策から実践してください。
まとめ
化学物質のリスクアセスメントは、法令遵守と同時に作業員の命を守る取り組みです。約2,900種類に拡大した対象物質を自律的に管理するには、現場全体での仕組み化が欠かせません。
紙の手順書や個人の感覚に頼る運用では、目に見えない化学物質の危険を確実に防ぐことは困難でしょう。まずは過去にヒヤリハットがあった作業から優先し、支援ツール等で効率的に評価を進めてください。
そして、導き出した安全な手順を誰もが直感的に理解できるよう、動画マニュアルの活用をおすすめします。現場教育を改善して、全員でルールを守り抜く強固な現場を構築していきましょう。
引用元/参考元
*1:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「化学物質のリスクアセスメント実施支援」
*3:労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要
*4:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「4-クロロアニリンの粉砕作業中、アニリン中毒となり入院」











