セル生産方式とは、近年注目されている効率的な生産方法で、従来のライン生産方式の欠点を補うために開発されました。セル生産方式により、企業は生産性の向上やリードタイムの短縮を実現し、市場の変化にも柔軟に対応できるようになっています。
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目次
そもそも「セル」とは?
セルとは、製造工程を独立した単位に分割し、単位ごとに作業者が配置されることで、特定の製品や部品の組立作業が完結するように設計されたものです。セルによって生産ライン全体が効率化され、作業の見通しが良くなることが利点です。セルの配置や大きさは、製品や生産量に応じて柔軟に変更できるため、多くの製品に対応できます。例えば自動車部品の製造であれば、エンジン組立セル、ボディ組立セル、内装組立セルなど、それぞれの部品に特化したセルが存在し、セルごとに作業が分割されることでスムーズな生産が実現できます。
セル生産方式の概要
セル生産方式の根底には、ムダの徹底排除を掲げる「トヨタ生産方式(TPS)」の哲学があります。TPSの2本柱である『自働化』や『ジャスト・イン・タイム』のノウハウを応用し、生産現場をさらに柔軟かつ効率的なものへと進化させたのがセル生産方式です。具体的には、製造工程を独立した単位に分割し、各セルに作業者を配置します。作業者はセル内で複数の工程を担当し、製品や部品の組立作業が完結するように役割分担されます。作業者が複数工程を担当することでムダな移動や待ち時間が削減され、生産ライン全体の効率化と作業者のスキルアップが実現できます。
ライン生産方式との違い
セル生産方式とライン生産方式の違いは、主に技術継承の難易度や多能工化の部分にあります。セル生産方式では、作業者が複数の工程を担当して幅広い知識とスキルを持つため、技術継承がスムーズに行われ、多能工化を促進できます。急な製品変更や生産量の変動にも対応でき、作業者のスキルアップにより品質や生産効率の向上が期待できます。一方、ライン生産方式では作業者が特定の工程に専念するため、他の工程に関する知識やスキルが伸びにくく、技術継承が難しく、多能工化も進みにくい点が特徴です。そのため製品の変更や生産量の変動に対応しにくく、作業者のスキルが限定されることで品質や生産効率の向上が期待できない場合もあります。
こうした違いから、セル生産方式はライン生産方式に比べて技術継承の円滑化や多能工化を実現でき、柔軟性や効率性に優れています。トヨタ自動車はセル生産方式を活用して効率的な生産ラインを構築し、車両の生産や部品の供給をスムーズに行っています。キヤノン株式会社やソニー株式会社などの電子機器メーカーも、セル生産方式を導入して製品の多様化や市場の変化に迅速に対応できる生産体制を築いています。
なお、多能工化は「作業者に複数工程を任せる」と決めるだけでは進みません。誰がどの工程をどのレベルまで習得しているかを一覧化し、育成の優先順位を決める運用が要になります。
セル生産方式が普及した4つの背景
セル生産方式が広く普及した背景には、次の4つが挙げられます。
市場環境の変化
近年の市場環境は競争が激化し、消費者のニーズが多様化しています。企業は迅速に市場の変化に対応し、多様なニーズに応える製品を提供する必要があります。セル生産方式は柔軟性が高く、生産ラインの変更や新設が容易なため、市場環境の変化に対応しやすい方式です。
製品の多様化
製品の多様化が進むなか、企業は多くのバリエーションの製品を少量生産することが求められます。セル生産方式は作業者が複数の工程を担当して効率的に生産を進められるため、小ロット生産に適した柔軟性があり、多様な製品の生産にも対応できます。
生産効率の追求
グローバル競争が激化するなか、企業は生産効率を向上させコスト削減を図る必要があります。セル生産方式は作業者が複数の工程を担当することで移動時間や待ち時間が削減され、ムダを排除し、生産効率の向上や多能工化による労働力の有効活用が可能です。
従来のライン生産方式の課題への対処
ライン生産方式には、労働者のスキルの偏りや生産ラインの柔軟性の欠如などの課題があります。セル生産方式はこの課題に対処するために開発されました。作業者が複数の工程を担当するため、スキルの偏りを解消し、多能工化を促進できるからです。セルの配置を自由に変更できるため生産ラインの柔軟性も向上し、製品の変更や生産量の変動にも迅速に対応できるようになります。
セル生産方式の主な種類
セル生産方式には主に以下の4つがあります。
1人方式
一人方式は、一人の作業者が製品の全工程を担当するセル生産方式で、作業者に高いスキルが求められます。生産効率の向上や作業者のスキルアップが期待できますが、一人で全工程を担当するため、生産量が多い場合に負担が増えることがデメリットです。実施例としては、時計の組み立てや高級オーディオ機器といった精密な製品が挙げられます。
分業方式
分業方式は、複数の作業者が担当する各工程をひとつのセル内で連続的に行う方式です。作業の効率化や作業者間のコミュニケーションがスムーズになり、生産性の向上が期待できます。迅速な製品変更にも対応でき、家電製品や自動車部品の組み立てなど中小規模の生産に適し、柔軟な生産体制を構築できるため市場の変化に対応しやすい方式です。
巡回方式
巡回方式は、作業者が複数のセルを巡回しながら各セルの工程を担当する方式です。作業者が複数のセルを管理することで各セルの効率を最適化し、全体の生産性を向上させられます。適切な作業者配置や効率的なリソース管理が実現でき、自動車部品やプリント基板の組み立てなど、多品種少量生産に適しています。
インライン方式
インライン方式は、連続した工程を一直線上に配置し、作業者が順番に工程を担当する方式です。工程間の移動が最小限に抑えられ、効率的な生産が可能です。連続した工程が特徴の製品に適し、大量生産が可能というメリットがあります。食品製造業や自動車部品の組み立てラインなど、高い生産性が求められる場合に適しており、生産プロセスの標準化や効率化を図れるため、コスト削減や品質向上が期待できます。
セル生産方式のメリットとデメリット
セル生産方式のメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
メリット
セル生産方式のメリットとしては、次の3つが挙げられます。
少人数で多品種少量生産が可能
セル生産方式は、少人数で多品種の製品の少量生産が可能です。各セルが独立して機能し、作業者が複数の工程を担当できるため、人手不足の状況でも効率的な生産ができます。手作業が多い工芸品の生産などに適しています。
生産変動への高い適応力
各セルが独立しているため、市場の需要に応じてセルの数を増減させることが容易で、生産量の変動に柔軟に対応できます。季節商品の生産など、需要が変動する製品に効果的です。
安価な導入コスト
従来の大規模な生産ラインに比べ、必要な設備やスペースが少なく済むため、初期投資を抑えられます。新規事業を立ち上げる際や製品の試作を行う場合に適しています。
デメリット
一方、デメリットとしては次の3つが挙げられます。
労働集約的で自動化しにくく品質が不安定
作業者が複数の工程を担当するため、自動化が進んだ大規模な生産ラインに比べて労働力が必要で、自動化が困難です。精密機械の生産などでは、品質の安定化が難しい場合があります。
作業者の教育が長期化する
作業者が複数の工程を担当するため、習熟するまで教育や育成に時間がかかります。電子機器の組み立てや複雑な機械部品の加工などでは、多くのスキルと知識が求められ、教育期間が長くなりがちです。この「教育の長期化」こそがセル生産方式最大の壁であり、克服の鍵は、各作業者の習得状況を見える化して育成の順序と到達度を管理することにあります。行き当たりばったりのOJTではなく、スキルマップで「誰に・何を・次に教えるか」を設計すれば、多能工の育成期間を計画的に短縮できます。
複雑な工程管理
各セルが独立して機能し、作業者が複数の工程を担当するため、工程全体の管理やコントロールが難しく、工程管理が複雑になります。製品の仕様変更や急な生産量の変動があった場合、各セルの調整が必要となり、管理が煩雑になることがあります。
セル生産方式の導入事例
セル生産方式を導入した企業のなかでも、突出して成果を挙げているキヤノン株式会社、トヨタ自動車株式会社、ソニー株式会社の3社を紹介します。
キヤノン株式会社
キヤノン株式会社は、1998年からセル生産方式を導入し、その効果を最大限にいかしています。導入の背景には、多品種少量生産への対応がありました。各セルが独立して機能するため、製品のラインナップが増えても迅速かつ効率的に生産できます。キヤノンはデジタルカメラやプリンターなど多様な製品を扱い、市場のニーズに合わせて生産計画を柔軟に変更しています。また、工程間の移動が少なく組立から出荷までの時間が短縮されるため、短いリードタイムを実現しています。各セルが独立して機能し、専用設備や大量の在庫を必要とせずリソースを有効活用できるため、設備の共有化や在庫の最適化によるコスト削減も図られています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、セル生産方式の発展に大きく貢献した企業の一つです。1980年代、トヨタは自動車部品の組立ラインで自動化が困難な場面に直面し、U字ラインや二の字ラインといったセル生産方式の一形態を開発しました。U字ラインでは複数の大型工作機をU字型に並べ、多能工が工作機を渡り歩いて作業を実施し、生産効率の向上と工程管理の容易化を実現しました。
トヨタ生産方式については、トヨタ関連会社の社長を歴任し実際のトヨタの製造現場を見てきた小森氏が解説する動画を公開しているので、こちらも併せてご覧ください。
関連動画:トヨタ生産方式と現場改善~産業の垣根を超えた改善の着眼点~
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、ベルトコンベヤー式の生産方法では多品種・少量生産に対応しづらく効率が悪いため、「セル生産方式」を導入し、製造業に革新をもたらしました。消費者の個性や付加価値を求めるニーズに応えるため、多品種化が進む音響・映像(AV)、家電の製造にセル生産方式を取り入れ、効率的な生産を実現しています。セル生産方式は、一つの製品を流れ作業で作るのではなく、一人もしくは数人が一つの製品の組み立て・検査まで行う方法であり、製造職人の復権とも言える方法です。結果として、ソニーは従業員の創造性や尊厳を大切にする作業環境を提供し、効率的で柔軟な生産体制を構築しました。
ダイナミックセル生産方式にも注目が集まる
近年では、新しい生産方式としてダイナミックセル生産方式に注目が集まっています。ダイナミックセル生産方式は、セル生産方式とライン生産方式の優れた点を組み合わせたもので、生産効率や柔軟性の向上が期待できます。各工程をセルに分けて作業し、インターネットでセル同士を接続して一つの大きなセルの流れを形成します。これにより、仕様の異なる製品を既存の生産ラインで製造したり、多品種少量生産が得意なセル生産方式よりも生産効率を高めたりできます。例えば新車のモデル開発でボディーのみ変更する場合、必要なセルだけを新しくし、他のセルはそのまま使い回せるため、変更による労力や混乱を最小限に抑えられます。また、作業の遅れやトラブルが生じた際にもラインの流れを組み替えられるため、リアルタイムに状況を判断して最適な生産工程に変更できます。
セル生産方式を効果的に機能させる仕組み
セル生産方式を効果的に機能させるには、デメリットを克服し、生産効率や品質を向上させる仕組みが求められます。
労働集約的で自動化しにくく品質が不安定な問題には、適切な技術の導入と効果的な作業分担が重要です。労働集約的な作業を自動化することで、品質の安定化や労働力の削減が可能となります。ロボットやAI技術を導入し、精密機械の生産などで作業者の負担を軽減し、品質の向上を図ることができます。
次に、作業者の教育が長期化する問題には、効率的な教育プログラムの開発とスキルアップを促す環境づくりによる教育期間の短縮が求められます。ここで有効なのが、作業手順を動画で標準化し、スキルの習得状況を見える化する仕組みです。実践的なトレーニングやシミュレーションに加え、動画マニュアルで「正しい手順」を繰り返し学べる環境と、スキルマップによる到達度管理を組み合わせれば、電子機器の組み立てや複雑な機械部品の加工でも作業者のスキルアップを計画的に進められます。
>>動画マニュアルが紐づくクラウド型スキルマップ「tebiki現場教育」資料を見てみる
また、複雑な工程管理に対処するには、デジタル技術を活用した効率的な生産管理システムの導入が重要です。デジタル技術を用いることで各セル間のコミュニケーションが円滑になり、工程全体の管理や調整が容易になります。紙の帳票や口頭連絡に頼る運用をデジタルへ切り替えれば、製品の仕様変更や急な生産量の変動があっても、各セルの調整を迅速かつ効率的に行えます。現場のペーパーレス化が生産性に与える効果は、以下の動画で具体的に解説しています。
>>製造現場の生産性を高める「ペーパーレスの効果的な推進法」を見てみる
セル生産方式の革新と企業事例【まとめ】
セル生産方式とは、製品ごとにセルと呼ばれる単位で生産を行う方法で、従業員が製品の組み立てや検査まで一貫して担当します。一方、ライン生産方式は一人ひとりが特定の作業を担当し、製品が流れ作業で組み立てられる方法で、両者は主に技術継承の難易度や多能工化の部分に違いがあります。
セル生産方式の普及は、企業が多品種・少量生産への対応や従業員の創造性・尊厳を重視するようになった背景にあり、一人方式・分業方式・巡回方式・インライン方式などから自社の製品に適した方法を選択することが重要です。そして、どの方式を選ぶにせよ、成否を左右する要素の一つが、多能工の計画的な育成です。まずは自社で、各作業者の工程別スキルが一覧で見える状態になっているかを確認してみてください。多能工化を計画的に進めるスキルマップの作り方は、以下の資料で具体的にご確認いただけます。











